スポーツ医学研究センターの歴史
スポーツ医学を先導する研究施設
スポーツ医学研究センターの設立のきっかけは,1980年代半ばに遡ります.石川忠雄塾長(当時)は,慶應義塾に欠ける分野として,移植再生医療とスポーツ医学を挙げられ,慶應義塾がそれらを先導する施設の開設を検討されました.
しかし当時,大学病院(信濃町)は新棟が完成したばかりで,スポーツ医学の研究・診療施設をつくることは事実上困難でした.そこで,石川塾長は,普通部,高校,大学1,2年生が通学し,体育会学生の練習拠点である日吉キャンパスにスポーツ医学の研究施設を作るよう指示されました.「ここで基礎的な研究を行い,将来,医学部が作る臨床部門とつながれば,基礎・臨床両部門の研究が行われる」とされ,日本のスポーツ医学の草分け的存在であった山崎元先生が構想素案を作り,1989年4月1日,日吉キャンパスのイチョウ並木(横浜市まちなみ景観賞受賞)沿いに,スポーツ医学研究センターが開設されたのです.
アスリートのサポート
センターの当初の設立目的は,以下のようなものでした.「スポーツ医学における教育および研究を行い,競技力水準の向上を図るとともに,スポーツによる事故および疾患の予防を行うことによって,慶應義塾のみならず,わが国における医学の発展とスポーツの振興に寄与することを目的とする」
発足時は,まず学内の要求に応えるべきとの考えから,体育会学生を中心とするアスリートのサポートとして,
- 運動にともなう事故・障害の予防と対策
- 競技力の向上
を課題としました.
とくに近年は,塾内体育会学生を対象とする種々のサポート体制の整備を行なってきました.具体的な内容として,
- 緊急時対応として,救急対応システム・脳震盪対応マニュアルの整備・構築
- 通常の外傷・傷害への対応として,日吉地区の整形外科サポート体制
- 外傷後の競技復帰サポートのためのセンターにおけるリコンディショニングサポート体制の構築
- 重症化予防のためのケガ相談窓口の開設
- 外傷・事故予防のためのメディカルチェックの施行,BLS(救命救急)講習の開催,外傷予防プログラムの導入
- 競技力向上をサポートする諸検査・諸測定
さらに
- 教育プログラムとしての「強くなるためのスポーツ医学基礎講座」の定期開催
など,緊急時から予防・教育まで幅広い対応を行っています.
一方,塾外の競技団体では,日本相撲協会や神奈川県体育協会,日本陸上競技連盟,日本野球機構,日本オリンピック委員会ほかの医学的サポートを主導・参画し,わが国のスポーツ現場に多大な貢献を果たしています.2020東京オリンピック・パラリンピックやその後のレガシー構築においても強い指導力を求められています.
健康増進・予防医学
スポーツ医学が担うもう1つの重要な分野に,健康増進・予防医学があります.とりわけ,当センター設立直後の1990年代前半は,生活習慣病改善のための運動の主目的がエネルギー消費量であると認識され,運動を含むより広い概念である「身体活動」に健康運動のパラダイムがシフトした時期でもあります.
少子高齢化が進むわが国では,高齢者の虚弱・認知症予防はもとより,生産年齢期の健康増進,生活習慣予防とそれによる労働生産性の向上は喫緊の課題です.運動・身体活動のみならず栄養や休養・睡眠も含む生活習慣全般へのアプローチは,スポーツ医学研究センターの大きなテーマです.「スポーツ」はヨーロッパ圏では,「気晴らし,楽しみ」といった語感も持ちます.運動は長期に継続してこそ効果を発現するものであり,当センターでは,楽しみの要素を包めたスポーツの視点から運動継続にアプローチします.
塾内他機関との連携
スポーツ医学研究センターは,信濃町キャンパスの医学部,大学病院スポーツ医学総合センターと連携し,研究や大学病院外来患者さんの臨床にあたるほか,日吉キャンパスに位置する利点を生かし,湘南藤沢キャンパスの健康マネジメント研究科,矢上キャンパスの理工学部などと連携しながら研究を展開しています.
健康マネジメント研究科の大学院生に対しては,教育だけでなく研究活動の場を提供し,教育施設としても重要な役割を担っています.