スポーツ現場における頭頸部のけが対応

頚髄損傷について

頚髄損傷とは

頚髄損傷 頚髄が損傷され、四肢、体幹の運動障害、感覚障害が一時的あるいは永続的に喪失した状態
・一生涯、車いす生活となってしまう、きわめて重大なスポーツ外傷
・頚髄損傷だけは極力避ける必要があります

頚髄損傷の発生頻度

脊髄(頚髄、胸髄、腰髄)損傷の発生頻度 人口100万人に対して年間40.2人(日本全体で年間約5000人)
スポーツによる脊髄損傷 人口100万人に対して年間2.0人(日本全体で年間約250人)
頸髄損傷が84%を占めた1)
スポーツ種目別
種目%
水泳18%
スキー/スノーボード10%
ラグビー8%
体操3%
柔道2%

(全国脊髄損傷データベース2016-2020)

頚髄損傷を防ぐには(1)

水泳飛び込み 入水角度(上肢と水面の角度)が大きすぎると危険
30度未満であれば頭部が水深1mに達しない2)
水深は2m以上(3m以上を推奨)であること3)

「学校体育実技指導資料 第4集 水泳の指導の手引き(三訂版)文部科学省」抜粋

頚髄損傷を防ぐには(2)

ラグビー 頸椎屈曲位でのタックル、ラックが危険
スクラムはバインドがしっかりしていることを確認してからボールインすること2)
アメリカンフットボール ヘルメットの頭頂部からタックするするspearing tackleは禁止
ヘッドアップでのコンタクトプレーがよい4)
柔道 内股、払い腰等の技を掛けるかまたは掛けようとしながら、畳の上に直接倒れることを反則負けとする(国際柔道連盟試合審判規定)
頭部を腰より低くして技を掛けるのは危険(特に内股)。頭部は常に腰より高くして行うこと5)
  1. 新宮彦助ら、日整会誌 70, 1996.
  2. 神舘盛充ら、日本臨床スポーツ医学会誌 22, 2014.
  3. 公益財団法人日本水泳連盟・プール公認規則 2018.
  4. 月村泰規、臨床スポーツ医学 33, 2016.
  5. 松永大吾ら、JOSKAS 45, 2020.

頚髄損傷の種目別予防のポイント

スポーツ種目予防方法
水泳飛び込み入水角度(上肢と水面の角度)を30度未満にする
水深が2m以上であることを確かめる
ラグビー頸椎屈曲位でのタックル、ラックを避ける
スクラムはバインドを確かめてからボールイン
アメリカンフットボールヘッドアップでのコンタクトプレーをする
柔道技を掛けるとき、頭部は腰より高くすること
特に内股を掛けるときが危険なので要注意

スポーツ現場における頭頸部のけが対応

練習中に頭頸部のけがが起きたら

スポーツ現場での対応(参考)

Logroll手技=選手の身体を首も含めた大木に見立てて、ローリングするようにしてスパインボード(図)に乗せる

注:専門家による取り扱いが必要ですので、あくまでも参考です。

頚髄損傷の新たな治療法

いままで頚髄損傷には、根本的な治療法はありませんでした。

ところが最近、頚髄損傷に新たな治療方法が研究されています。

iPS細胞を使った脊髄再生治療です。

慶大生理学教室の岡野栄之教授と慶大整形外科学教室の中村雅也教授のグループが、研究をしており、今、臨床治験の段階まできています。
近い将来、頚髄損傷が治る時代がくることを期待したいと思います。

慶應義塾大学スポーツ医学研究センター教授 橋本健史