スポーツ現場における脳振盪Sports Related Concussion (SRC) への対策
スポーツ現場における脳振盪への対策について、大学生が知っておくべきポイントをお伝えします
脳振盪とは?SRCを知るためのポイント
- 頭を打っていなくても脳振盪になる
頭部、顔面、頚部等、身体のどこかに加えられた衝撃波状の外力が、頭部に伝達されることよって生じます。したがって、頭を打っていなくても頭が激しく揺れるような衝撃が体に加わった場合には脳振盪が生じます。 衝撃に伴う加速度によって、頭蓋骨内で脳にひずみが起きてしまうのです。 - 脳振盪の症状は、通常、受傷後すぐに発症し短期間で回復するが、時間をかけて進行(悪化)する場合もある
急性神経学的機能障害(健忘、平衡感覚障害(バランス感覚の障害)、混乱、情緒不安定、認知機能障害など)が早期に生じ、通常は時間とともに自然回復します。しかし、症例によっては数分〜数時間かけて症状が進行することがあり、回復に長期間を要する場合や、症状が長期に渡り残存することがあります。 - 画像検査では診断できない
急性期の症状は脳の機能障害によって引き起こされたものであり、一般的な画像検査において形態的な異常を認めません。つまり、MRIやCTを撮っても診断できるものではなく、画像検査で異常がなかったからといって、脳振盪が否定できるものではないのです。 - SRCでは、一瞬〜数分に及ぶ意識消失を伴うことが多いが、必ずしも必発ではない
SRCの重症度は様々な症状の程度により総合的に判断されるものです。意識消失がなかったとしても脳振盪は否定できません。
現場でどうやって脳振盪を認識するか
CRT5(CONCUSSION RECOGNITION TOOL5)活用のすすめ
フィールド上で明らかに脳振盪と思われる症状がみられた場合は、すぐにプレーをとめ、受傷者(選手)をプレーから外すことが重要です。
脳振盪は多彩な症状を示すだけでなく、時間経過とともに比較的早い速度で状態が変化するので注意が必要です。受傷した選手が立ち上がり、見た目には回復して「大丈夫です」と言い出すことも珍しくないですが、このような場合も決してプレーに戻すことを許可せず、 まずは安静にさせ、医師や脳振盪に精通した医療スタッフの評価を受けてください。
しかし、SRCが発生した現場に、必ずしも医療関係者(専門家)がいるとは限りません。 医療関係者(専門家)不在のスポーツ現場で、 脳振盪を疑ったときの対処のためのツールとしてCRT5を紹介します。 PDFダウンロードが可能ですので、スポーツ現場でぜひ活用してください。特に赤色の部分は重要なので、事前に確認しておくことをお勧めします。
脳振盪を疑ったときのツール(CRT 5©)
日本脳神経外傷学会学術委員会の承認を得て掲載しています。このツールはこのままの形であれば、自由に複写して個人やチーム、団体、組織に配布可能です。ただし、改訂や新たな電子化には発行元の許可が必要です
脳振盪を受傷した日の行動
- 受傷した時点でプレーを中断
- 当日はプレー復帰禁止(身体の安静)
- 受傷した選手を一人にせず、必ず誰かが付き添いをする
- 24時間程度は急変時の緊急連絡がとれる体制を整える
- 自転車や自動車などの運転は禁止する
- インターネットやスマホ画面の閲覧、パソコン作業なども禁止(精神の安静)
- 受傷した日に病院を受診し専門医の診察をうけることが望ましいが、難しい場合は脳振盪に精通した医療スタッフ(チームドクター、アスレチックトレーナー等)に相談し、指示を仰ぐ
競技復帰について
自覚症状が完全に消失するまでは原則、競技復帰は禁止です(数ヶ月、数年を要する場合もあります)。
症状が残ったまま競技復帰した場合、再度脳振盪を起こすリスクは3〜5.8倍に上昇するとされ、脳振盪を繰り返すことによりさらに回復が遅れたり、恒久的機能障害につながることもあります。
受傷後24〜48時間の安静状態(身体的安静と精神的安静)を保ち、この時点で症状が消失すれば、以下の復帰プログラムに沿って段階的に活動度をあげ、約1週間のプロセスを経て競技復帰が許可されます。症状が改善しない場合は、改善を待って復帰プログラムを開始します。
順調にステップアップできれば、約1週間で競技復帰となります。言い換えれば、最低1週間は復帰できません。
これはあくまでも参考であり、競技復帰へのプロトコールの遂行や競技復帰の判断に関しては、専門医もしくは脳振盪に精通した医療スタッフに必ず相談するようにしてください。
高校生(18歳以下)の競技復帰について
18歳以下では学校活動再開を優先します
- 受傷後の安静(スポーツ休止)期間は、症状が消えても原則14日とする
- 脳が発達段階であることを考慮し、2週間は安静にします。
- 受傷直後24〜48時間は身体とともに脳の安静が必要
- パソコン、ゲーム、スマホなどの使用を控えます。
- まずは学校復帰、その後にスポーツ復帰
- School first, Sports second
- 日常生活で症状が悪化しなければ学校復帰
- 学校では、再受傷が想定されない範囲の身体活動は許容されます。
- 過度の欠席は、学業の遅れや仲間からの孤立につながるので推奨しない
- 学校復帰が完了し、症状が再発しなければ競技復帰のプロトコールを開始します。
脳振盪の予防や重症化させないためには
- ヘッドギアの着用
- スノーボードやスキーなどの限られた競技での頭部外傷(頭蓋骨骨折、皮膚の外傷など)の予防には有効とされている
- 残念ながらヘッドギア着用は、脳振盪予防には役立たないという研究結果が多い
- 選手、コーチ、選手家族の教育
- 脳振盪の発症機序やその症状を正しく理解する
- 受傷したらプレーから外し、症状が消失したとしても同日復帰は禁止することを徹底する
- 段階的競技復帰プロトコールの遵守
- 衝突リスクを回避するためのルール変更
- ある種の競技では有効である(野球のコリジョンルール導入など)
- 競技特性上、変更しにくい競技もある(ボクシングなど)
- リスク回避を優先すると魅力が半減してしまう競技もあるので、ルール変更には限界がある
- 発生時の対応や復帰手順の標準化
- 相談できるドクターの確保、救急搬送先の事前調査など、脳振盪が発生した時の対応を準備する
- 脳振盪に関する知識や対処の方法を全員で共有する
スポーツ医学の中で脳振盪は、診断、評価、管理が最も困難な外傷の一つです。
脳振盪の扱いに関する国際ルールは毎年アップデートされ、インターネット上でも情報が公開されています。コリジョンスポーツ(選手と選手がぶつかり合うスポーツ)に関わる学生諸君は、自分自身や仲間を守るために、ぜひ、自ら情報収集してください。
学内スポーツ現場でSRCについて困ったことがあれば、スポーツ医学研究センターでも相談を受け付けています。
学内アスリート向け教育講座の開催
強くなるためのスポーツ医学基礎講座では、学内アスリート向けに「SRCの基礎知識から競技復帰までのルール」について教育講座を行っています。練習や試合中に脳振盪が発生する可能性がある競技団体は、参加必須としています(その他、学内アスリートはどなたでも参加できます)。
もっと詳しく知りたい人は
- スポーツと脳振盪ー最近の見解ー 石田浩之
- スポーツ医学研究センターnewsletter19.pdf
- 第5回国際スポーツ脳振盪会議(ベルリン,2016)「スポーツにおける脳振盪に関する共同声明」の解説と翻訳
- https://doi.org/10.32187/neurotraumatology.42.1_1
- 頭部外傷10か条の提言(第2版)
- 一般社団法人 日本臨床スポーツ医学会