アンチ・ドーピングの基礎知識
大学生アスリートに知っておいて欲しい、アンチ・ドーピングの基本知識についてまとめています。
1.ドーピングはなぜ禁止されているのか?
ドーピングとは、競技能力を高めるために薬物などを使用したり、その使用を隠蔽したりすることです。ドーピングは以下の理由で禁止されています。
- スポーツの価値を損なう
- フェアプレーの精神に反する
- 競技者の健康を害する
- 反社会的行為である
ドーピングは"ずるい"行為ですし、身体に"危険な"行為なので、これを認めていたら、スポーツ観戦していても感動することはないでしょう。
2.ドーピング検査の実際
ドーピング検査には競技終了後に行われる競技会検査と、競技会とは関係ないところで行われる競技会外検査があります。競技会外検査はいわゆる「抜き打ち検査」です。ドーピングコントロールオフィサー(DCO)と呼ばれる資格を有する検査員が、選手の練習場所に予告なしに訪れます。一定レベル以上の選手は、練習時間と場所を居場所情報として予め提出することが義務づけられています。DCOはこの情報に基づいて、予告なしに選手本人と会うことが出来ます。もし申告しておいた場所に本人がいなくて、検査を実施出来なければ、罰則の対象となり得ます。
まず競技者に対して、検査対象者であることがDCOから告げられます。検査を拒否すると、アンチ・ドーピング規則違反となります。検査では主に尿が採取されます。尿の採取は同性のDCO監視の下に行われます。採尿時には原則として、袖を肘まで上げ、シャツを胸のところまで上げ、ズボンを膝下まで下げます。尿が選手本人の体からきちんと出されたものであることを目視で確認されるため、慣れていない選手にとっては恥ずかしいようです。また、監視下で採尿するために、緊張してなかなか尿を出せなかったり、競技直後の脱水のために必要な尿量を一度の排尿で確保出来なかったりすることもあります。必要な尿量 (通常90ml)を確保出来るまで、ドーピング検査は終了しませんので、検査室で長時間滞在する選手も時々います。採取された検体はDCO監視の下に選手自身の手で容器に分注されます。この容器は一度フタを閉めると、容易には開けられない構造になっており、第三者による不正が行われないようになっています。そしてこの検体は世界アンチ・ドーピング機構認定の分析機関に送られ、どの選手のものかが分からない状態で検査が行われます。大変な検査ではありますが、この検査を数多く受けることはトップアスリートの宿命であり、陰性の結果を重ねればクリーンなアスリートであることの証明になります。最近は、検体として尿と同時に血液をとる検査も増えてきました。肘の静脈が分かりにくい選手もいますので、最高で3回まで針を刺すことが許されています。一般的に採血による検査は、尿検査ほど時間はかかりません。
近年、さまざまな競技において、東京オリンピック出場を目指す若いアスリートの活躍が見受けられます。若いアスリートも一定競技レベルに到達していると、年齢に関係なく、ドーピング検査を受ける可能性があります。現在、日本国内の法律では、未成年者は20歳未満となっています。一方で、ドーピング検査における未成年者は18歳未満と定義されています。未成年者については、検査に必ず成人が付き添う必要があります。通常、監督、コーチ、チームドクター、チームトレーナーなどが未成年者の検査に付き添うことが多いです。
3.アンチ・ドーピングのための薬の知識
ドーピングとは、競技能力を高めるために薬物などを使用したり、その使用を隠蔽したりすることです。ドーピングは以下の理由で禁止されています。
- かぜ薬(総合感冒薬)
薬局やドラッグストア、ネットで購入可能な総合感冒薬には注意が必要です。禁止物質であるエフェドリンなどを含むことが多いためです。薬に含まれる有効成分が記載されている紙を必ずチェックして下さい。メチルエフェドリン、エフェドリン、プソイドエフェドリン、麻黄(マオウ)などの禁止物質が記載されていないかをよく見て下さい。 - 鼻炎薬
鼻炎の薬にもかぜ薬と同じエフェドリンが入っていることがありますので、注意が必要です。 - 漢方薬
漢方薬にはたくさんの複雑な成分が含まれています。漢方薬には明らかに禁止物質を含むものがあり、マオウ、ホミカ(ストリキニーネを含む)などはそ の代表です。葛根湯にもマオウが含まれているので、注意が必要です。 - サプリメント
最近、ドーピング違反事例で増えているのがサプリメントに起因するものです。特に、外国製のサプリメントには表示成分以外のドーピング禁止物質が混入していることもあります。これをサプリメントの"汚染"とい言います。禁止物質の蛋白同化薬や利尿薬などが入っていることもあります。サプリメントの摂取は自己責任ということを覚えておいて下さい。 - 治療薬
医療機関を受診する時は「ドーピング検査を受ける可能性のあるアスリートなので、禁止物質を含まない薬を処方して欲しい」ことを医師に伝えて下さい。また、自分が服薬している薬の正確な薬物名、用法、用量のメモを持ち、説明書きがあれば、一緒に持つようにしましょう。時々使う薬は、使った際に日付と用量をメモしておきます。薬について分からない場合、global DROというサイト(https://www.globaldro.com/JP/search)で調べることも出来ますし、アンチ・ドーピングに詳しいスポーツドクターやスポーツファーマシストに相談することも出来ます。
4.治療使用特例(TUE)
病気にかかった際、ドーピング禁止物質や禁止方法を使用しなければ治療が出来ない場合、アスリートは治療を受けられないのでしょうか?それは間違いです。事前に所定のTUE申請書類を提出し、それが承認されれば、例外的に治療目的に限定して、ドーピング禁止物質や禁止方法を使用することが出来ます。事前にTUE申請するのが原則ですが、救急車で運ばれて、緊急治療を受けた際には、後からTUE申請することも出来ます。ただし、TUE申請書類の審査は厳密に行われていますので、承認されない場合もありえます。
まとめ
禁止物質や禁止方法は、世界アンチ・ドーピング規程の禁止表国際基準(Prohibited List) に定められ、少なくとも毎年1月1日に更新されます。最新のアンチ・ドーピング規則に関する正確な知識・情報が必要な場合や、TUE申請についてのご相談は、スポーツ医学研究センターのスポーツドクターにお問い合わせください。
もっと詳しく知りたい人は、
- 公益財団法人日本アンチ・ドーピング機構
- https://www.playtruejapan.org/
- アスリートに必要なドーピングの知識をわかりやすくまとめています
- https://www.realchampion.jp/
- Global Drug Reference Online
禁止表国際基準にもとづいた薬の商品や成分を検索するためのサイト - https://www.globaldro.com/